薬食同源

不定期連載 山道をゆく 第128話
03/05/04 権現岳
天女山(庵選千名山218)、前三ツ頭(庵選千名山219)、
三ツ頭(庵選千名山220)、権現岳(山梨百名山、八ヶ岳、庵選千名山221)
(includes 不定期連載 グルメ街道をゆく 小淵沢 森樹(薬膳))
5/4(日)
庵庵…鴨居〜八王子〜小淵沢〜甲斐大泉=天女山駐車場
…天女山…天の河原…前三ツ頭…三ツ頭…権現岳…権現小屋
…ギボシ…ノロシバ…青年小屋…押手川…雲海展望所
…グリーンロッジ…観音平…異様なスロープ
…スパティオ小淵沢・森樹…小淵沢駅〜大月〜八王子
〜鴨居…庵庵

〜:電車、…:歩き、=:タクシー

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
九州から帰還したばかりだと言うのに、山仲間が天泊で瑞牆を目指していると聞き、居ても立っても居られなくなってしまった。各種洗濯に、テントやシュラフ干し、業務メールを処理すれば、夕方には何とか余裕が生まれたので早速ホリデーパスを購入しに駅へ向かった。瑞牆山登頂時にはガスっており、しかも下山時には晴れ渡ったと言う痛恨を晴らしたかったのだが、天泊組には追い付けそうもないため、追撃は断念した。然し、ガツンと厳しいのを1山遣って遣らんと、予てから温めていた南八ヶ岳の権現岳日帰りプランを決行することに決定した。小海線を利用するとコースタイムを縮められるが、列車本数の懸念と下山後の温泉捜索に難点がある。何とか下り臨時快速の便を利用すれば甲斐大泉から小淵沢までの縦走が実現出来ようか。其れでもコースタイムは10時間45分なので、其のまま小淵沢に戻ってもゲームオーバー、自宅まで其の日のうちに帰還することは不可能なのである。この企画自体、賭けなのだ。
一昨日はかいもん山麓ふれあい公園キャンプ場にて3時に起床したため、昨日は20時過ぎには睡魔に襲われていた。今日は4時半には目覚め、準備万端だ。八王子始発の松本行き各駅停車内にて、九州行脚時に溜めていた新聞を読み捲った。あまり世相は変わっていないようだな・・・この列車の車掌はやる気があるのだろうか。無人駅も多いのだから、切符売りに車内を回れば無賃乗車抑止に繋がると言うのに、車掌室に閉じ篭りっきりである。
小海線は臨時列車とは言え、ドル箱路線なのか、根本的に本数が少ないのが影響して車内はかなりの賑わいであった。さてさて、甲斐大泉駅である。天女山までの消化試合は出来れば避けたい。誰か、天女山までタクるグループは・・・おっと、オジサンハイカー3人衆がタクシー乗り場に歩いて行くぞ!
「済みません、天女山まで行かれるのですか?宜しければ便乗させて下さい」
目的の方向もバッチリ、タクシー乗り場には我々のみが乗車を許されるべく、若干1台のタクシーが待ち構えていた。我々の後に来た、オバハンオジサン夫婦は別方面を目指すらしい。タクシーがもうないので、我々の車の運ちゃんが無線で応援を呼んでいると、オバハン、目の前で準備体操を始めてしまった。目の前が至極殺風景と化した。其の体格、顔立ちからして、報禁は免れないであろう。オバハン、其の体型なら、健康のためにも歩くべきだろうが。然し、ラッキーであった。タクシーは順調に天女山駐車場へ到着。4人で割れば、大した額ではない。便乗のお礼に少々色を付けて勘定を払った。オジサン組も、1人増えて割り勘分も減ったためか、逆に礼を言ってくれた。華奢なオジサングループである。良い山をお過ごし下さい。
さて、天女山は駐車場から目脂と鼻糞の先でしかない。仕方ない。10時間45分コースは出来るだけ圧縮する必要があるのだ。良い天気だ。然し、タクシーでは全く気分が出ない。南アルプスはばっちり見えるが、有り難味が無い。取り急ぎトイレで用を足してみるとするか。兎に角、サンダル履きや革靴履きの輩から、ワンちゃんの散歩まで、全く山の趣がない。是なら未だ霧が峰の方がグレードが上だろう。標高1620mの天の河原までも難所は皆無で、こちらでもワンちゃんと遭遇である。だが標高100mの差は大きい。展望は遥かに崇高だ。南アルプスに奥秩父連山も全開だ。此処からが登山の始まりだ。
案の定、もう殆ど人と擦れ違うこともなくなった。好天だ。振り返れば、南ア、白樺の幹の向こうには白馬を描いたような赤岳。大菩薩にええと、うーんと、何処かに瑞牆が潜んでいる筈だが・・・まぁ良い。好天なのだ。庵速全開だ。地球には光エネルギーとムギチャーゼが必要だ。麦茶は何処にあるのか。
何故、標高2000m地点を示す道標が2ヶ所も存在するのだろうか。其の差は優に100mはあろうと思われるのに。勝沼マラソンコースの二の舞か。寧ろ、此方が元祖なのかも知れぬ。何れのケースも初心者には痛恨に相違ないのだが。低い方は太陰暦表示なのかも知れぬ。信じられるのは自分だけだ。
2000m問題を巡る議論の余韻冷め遣らぬまま、残雪を観測してしまった。やっぱり。溜めていた新聞に、赤岳での滑落事故が載っていたな。2000m問題所ではないな。今日はスピード重視なので、ペラペラのHawkinsアウトレットブーツにするか迷ったが、ゴアテックスで家を出て正解であった。ただ、ゴアのハイカットブーツ用の軽アイゼンが押入内で行方不明となり、必死の捜索にも拘らず救出不能だったことが後で尾を引くか否か、神のみぞ知る。
やがて大展望が広がる、前三ツ頭に到着。略せば前頭である。他意は全くない。然し、富士も見えていたのか!然し^2、権現方面から降りて来たと思しきオバハン軍団、天女山方面はどちらかと尋ねているのだ・・・道標を見ろ。地図を見ろ。スカポンタン。然し^3、オバハンのアホ印象を補って余りある展望だ。甲斐駒は何時も勇壮だ。富士も大分雪が解けている。前頭、此処に在り。中アに、槍穂まで見えているし!
其の後、やや傾斜のきつい笹尾根を歩けば、白樺の生息限界を越えて岳樺が目立ち始めた。コースタイム50分を30分程度で切り上げ、庵速逞しい限りである。やがて三ツ頭に到着。甲斐小泉駅方面からの尾根と合流だ。此処からの展望も抜群だ。木曽駒御嶽乗鞍槍穂〜。
三ツ頭からは、かなり下って登り返さねばならぬ。然し、ゴールは目前だ。くらえ、山梨百名山。庵速の轟きを。ハイマツが刺す。シャーベット雪面には滑り捲る。でも、負けない。
antonio and gon着いた。13時前着の野望を達成した。赤、阿弥陀、硫黄、横、蓼科、、、八ヶ岳、万歳!!!高い。2714mだ。今年、5月にしていきなり2500m峰を越えてしまった。あと、八ヶ岳で残るは阿弥陀岳のみか。お楽しみは温存だ。然し、絶壁だ。身の竦むような崖だ。飛べるなら空も飛んでみたい気分だ。
権現小屋午後で風も出て来たので先に進もう。未だ先は長いのだ。権現小屋までは指呼の間であった。雪の中の小屋の扉を恐る恐るあければ、クーラーボックスに例の物が!付近の雪を一緒に入れていたのであろう。ラガー缶はゴッツウ冷えており、是ぞ胃袋の求めていたスポーツドリンクであった。権現小屋、天晴れ。
以後、目立ったピークのギボシ、ノロシバを通過すると、後はほぼ下り一辺倒だ。白い稲妻戦法は時折大陥没にて失敗もするが、思ったよりは軽快であった。
青年小屋 数十分のシャーベット上の格闘スケートの末、青年小屋に到着した。麦茶を所望するか否か迷ったが、小屋内には偶々適当な人影が見当たらなかったので割愛することにした。3年前の秋口にも昨年暮にも見たことのない「遠い飲み屋」の提灯の意味は、果たして?此処で飲まないと、若しくは泊まらないと其の意味を理解することは不可能かも知れぬ。
桜謎のバックストレッチ青年小屋の先も暫くは格闘スケートの連続を余儀なくされた。やがて雪も少なくなると、今迄は涸れたものしか見たことのない押手川が流量を称え、滾々と流れているではないか。見飽きたシラビソの林に埋もれ、長旅に意識朦朧としつつあった。今迄人影を見たことのないグリーンロッジに若者が戯れている。さすが、黄金週間だ。残りの歩きは完璧に消化試合なのだが、観音平からスパティオ経由の面々が如何程居るものか読めず、結局其のまま歩くことにした。ゴルフコースのような、パラグライダーの滑走路のような、幅30m程度だけパックリ植林されていない異様な空間を下った。幅30m程度が数百mは続いているのである。真正面には甲斐駒ケ岳の雄姿が気取って止まない。あの雪掛かる甲斐駒を見ると、此処富良野の町にも春が訪れたような気がして、北の国からがフェードインしながら脳裏を埋め尽くしていた。るるるるる〜るるるる〜、、、本当にこの空間は何の為のものなのか。撮影用なのかも知れぬ。。。
やがてスパティオに到着。此処からの駅までの歩行時間を考えると、適当な列車まで2時間近くはノンビリ出来そうだ。昨年暮と異なり、黄金週間真っ只中でかなりの盛況のようだ。入場券売機も過稼動のためか故障してしまっていた。下駄箱も全て埋まっている。だが、洗い場を探すのは其れ程大変な作業ではなかった。設計のバランスが優れているのだろう。露天は2槽あって何れも温めで心地良い。大仕事を終えた後の温泉は格別この上ない。
風呂ビールと思って食堂に寄り、メニューを眺めていると摘みと定食の値段差があまりないことに気付く。折角だからと定食を注文した。何でも、薬食同源と謳われ、夫々の素材の良さを活かした定食のようである。ハンバーグ定食だが、ゆかりご飯やら薬味の入ったハンバーグやら、何を取っても美味くて体に良過ぎて死にそうだった。前回、何故是に手を出さなかったのか、呆れて物が言えない。スパティオの新たな発見であった。
小淵沢駅を目指して温泉を出て白樺林を抜けると目の前に中央道が登場した。上り路線は此処でも滞っていた。何処から何処まで続いているのだろうか。こんな場合は鉄道が楽だ。そして、小淵沢駅までの散歩中の極め付けは夕暮れ時のカーテンのような、南アルプス連山のキャンパスである。北や鳳凰に甲斐駒などが目の前にデーンと構えているのだ。愉快である。終わり良ければ全て良しと思わず唱えてしまうことであろう。
小淵沢駅では丸政のどらやきを買ったが、お茶を求めようともホームの売店にしか売っていないとのことであった。ホームの売店には残念ながら銀色の缶しか並んでいなかった。風呂直後や山直後なら構わないが、少々落ち着いてしまった後のスーパードライには若干の違和感を覚えてしまったのだが。
7時1分前の小淵沢始発電車に揺られ、甲府の9分
乗換え時にまた摘みとお茶を所望してしまった。
抜かれたスーパーあずさはさすがに立ち客も目立っ
ていたが、我が各駅停車には何処吹く風である。
激しい眠気の中、何とか大月、八王子と乗換えな
がら、もう少し、旅にゆとりを持つべきかなぁと
夜10時を回った鴨居駅で思案に暮れた。

(完)

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

付録:

山旅アドバイス
・未だ未だ雪多し。アイゼンの用意を。
・甲斐大泉駅にはタクシーが常駐していない場合あり。
・タクシー乗っても本コースタイムは9時間35分。
相応の覚悟が必要。小海線がネック。
・スパティオ小淵沢から小淵沢駅、長坂駅への送迎バスあり。
但し、一日4本程度。タクシーで小淵沢駅まででも5分らしい。