ヤマツツジ

不定期連載 山道をゆく 第129話
03/05/10 七ツ石山
高丸山(庵選千名山222)、七ツ石山(庵選千名山223)
5/10(土)
庵庵…鴨居〜八王子〜拝島〜青梅〜奥多摩…むかし道
…桧村バス停=峰谷…鷹ノ巣避難小屋…高丸山…七ツ石山
…ブナ坂…七ツ石小屋…鴨沢…小袖川=奥多摩〜立川〜八王子
〜鴨居…庵庵

〜:電車、…:歩き・走り、=:バス

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
右肘痛である。何をした故か、原因が全く思い当たらないのだ。ひょっとするとGW紀行の最中に何か気付かないうちに負荷を掛けてしまったのだろうか。また、黄金週間明けの土曜日は決まって蔵前会と出勤が重なっていた。今年からか、其の土曜出勤が1月延長の運びとなったのだが、肘痛だからと言ってOB戦に出場しないのは決まりが悪い。良心の呵責に如何なる弁明も出来ないのだが、肘痛でも出来ることを求めて5時前の庵庵を発った。
前夜は技術部の新人歓迎会で飲んだくれた。今回もビールしか飲めなかった。其れ以外のアルコールを体が欲しないのだ。最早胃袋がアルコールで癒すには足りない程の疲労若しくは障害を抱えていたのだろうか。アメリカ東海岸の仕入先からの連絡が中々来ないため、深夜か早朝に電話をしなければならず、二次会にも参加しなかった。庵庵に戻って今日への支度をしているうちに夜12時近く、電話に適当な時刻となった。掛けてみれば、answer phoneだった。やられた。担当者が出張か休暇か不明だが、不在だったらメールへの自動返信設定くらいしておいてくれれば助かるのに。。。
夜のうちに面倒なことは済ませ床に就き、若干重い胃を抱えながらも4時台に起床することが出来た。昨年の夏縦走時に買い込んだスポーツドリンク粉末の賞味期限が明後日に迫っていた。1袋開封してPETボトルに注入し、支度を整えて家を出た。
むむむ、今日の横浜線下り始発電車は、何時もの相鉄線下り始発電車に匹敵する程臭かった。昨晩終電に乗り遅れた輩ばかりである。臭う筈だ。山への意欲を殺がれかねない。参った。だが、昨今、彼等も自らの懐に鞭を打って財政出動しながら飲み屋経済を回してデフレ対策に貢献しているかと思うと、強ち否定は出来ないのかも知れぬ。
花よ奥多摩駅からの今日のターゲットのバスは7:50発である。先日乗車した四季彩号でも間に合うのだが、奥多摩駅乗換えが4分と落ち着かないため、始発横浜線電車からの乗り継ぎで奥多摩駅には7:17には到着していた。バス代をセーブしようとR411を山梨方面へと歩き始める。少々歩くと、「むかし道」の看板が誘うではないか。地図の雰囲気では其れ程国道から離れずに西へ進めそうである。是も悪くないと思い、国道を逸れた。然し、想像以上に起伏が激しい・・・下手をすると峰谷行きのバスも逃してしまうぞ・・・ずんずんとむかし道は国道を離れ、庵の普段と変わらぬ山道の様相を呈してしまった。遥か豆粒のようなR411には駅7:30発の小菅行きバスが走り抜けて行く。むむむ。この距離間。間に合うのか・・・すぐ近くの水根貨物線の軌道跡を珍しがって撮影している場合ではなかった。軌道跡に未練は残るが庵速が必要だ。予定外の箇所で庵速を駆使せざるを得ないのが腑に落ちないが、此処で峰谷行きのバスに乗り遅れた後の代替案は考えられないので、むかし道を走るしかなかった。幾度となく蜘蛛の巣に被爆した。参った。否、雲取山と鷹ノ巣山の間を目指すのであるから、アントニオが被爆したのは雲の巣だろうか。
結局バス停6つ分を稼いで何とか予定していた峰谷行きに乗車した。バス内は案の定、運ちゃんとアントニオ以外は全員シルバーシート着席有資格者であった。奥多摩湖岸道路沿いにチラホラと薄藍色の藤が風に靡いていた。峰谷橋からは予想通り対向車との擦れ違いが困難と思しき道幅の道にて、バスは幾分かの標高を稼いでくれた。峰谷川の清らかなせせらぎに釣り客も多い。結局バス停6つ分は整理券番号3相当で、庵速は70円の得であった。
さて、今日のターゲット七ツ石山へは、此処から直登するコースの他、鷹ノ巣避難小屋経由の2通りが存在する。後者はコースタイムにして20分のハンディキャップがあるが、小屋からの稜線にてヤマツツジの群生にひょっとするとタイミングが合うかも知れぬ。コースタイム20分の差など心配事ではない。
峰谷川渓流に沿い、山葵田を眺め終わると、森に吸い込まれた。木漏れ日が煌く。我がフィールドは矢張り安心出来る。落ち葉を踏み締めながら一歩一歩進んだ。ひんやりとしたフィットンチッド満載の空気に有りっ丈のエネルギーを貰えば歩調も軽い。40分程歩き、振り返れば三頭山や檜洞丸等の道志山塊が客席を埋めていた。霞みが深く霊峰は拝めないものの、居並ぶ山並みには共感を覚えた。一時林道に合流してから、何処にでも在る浅間神社を目指して再び山道へと戻る。ハイカーより幾分軽装で、荷物を神社下にデポしてお参りしようとする中年夫婦と擦れ違う。様子から、其のまま山登りを続ける訳でも無さそうであった。浅間神社の敬虔な信者、所謂浅間ジンジャーなのだろうか。
右肘痛のため、今日は奥多摩の土を踏んでいた。そして、ミズナラや杉などに囲まれていた。御蔭でヤマツツジにも誘われていた。1時間半も歩けば林相にシラビソやシラカバも仲間入りだ。やがて2年振りの鷹ノ巣避難小屋に到着。誰も居ない。全員追い越してしまったからか。
此処から七ツ石山まで、稜線と巻き道とが並走している。巻き道からの景色も申し分ない。花弁を豪華絢爛に塗した幾株もの山桜も待っていてくれた。嗚呼、自分は蝶になって石尾根近辺を舞っているのではないだろうか。彼らは、もうシーズンも終わり掛けているのだろうが、其れでも尚アントニオを魅了して止まなかった。
尾根伝いは地図上では難コースのマークが付されている。七ツ石山までピークが3ヶ所程度存在するようだ。試しに高丸山を目指そうと、巻き道を一歩逸れてみた。難コースとは!?ジェットコースターのような急斜である。成る程、蕎麦粒山から川苔山方面へ抜けた時と似たシチュエーションだ。体力さえあれば克服可能だ。難しいことはない。ただただ、壁のような斜面ではあったが。
コゲラがミズナラの幹間を飛び交う中、何の道標の無い高丸山に到着した。鹿倉山なども確認出来るし、眺望も悪くない。ただ、往きも帰りもジェットコースターは避けられない。高丸山ジェットコースターを降りてからは再び巻き道に復帰し、小鳥の巣箱の並ぶ彼らの楽園を通過した。ヤマツツジが咲き乱れるのも時間の問題であろう。巻き道に逸れずに其のまま石尾根を進めば千本ツツジと呼ばれる名所にも寄れたのだが、次回余裕のある時迄温存しておく。
七ツ石山、うぃーやがて語源と思しき幾つかの岩石を掠めれば、其の先に七ツ石山頂が存在した。ほほぅ、当然雲取に飛竜、乾徳、金峰、雁ヶ腹摺、大菩薩、鹿倉、三頭など、展望は申し分ない。霞んで霊峰には及ばないのが残念だが、人気の雲取と鷹ノ巣に挟まれて、独占欲は十分満たせる静かな山頂である。確かに峰谷からのバス組は未だであろうし、アントニオより早く到達可能なグループとしては雲取山界隈に前泊した者程度であろう。山を慈しもう。山夫々の顔があり、山夫々の花があり、山夫々の展望がある。人気の山だけが素晴らしいのではない。七ツ石山、有難う。
七ツ石小屋往路とは重複しないルートを選択し、一旦雲取方面へ下る。ブナ坂と呼ばれるくらいであるから、周辺にはブナが生息するのだろう。地図では近かろうと勘ぐっていた七ツ石小屋だが、思ったより時間を要した。看板こそ鉄板であるものの、木造の落ち着く山小屋で、お年寄が番を切り盛りしているようであった。寄るか反るか。少々迷ったが、七ツ石小屋で休憩を貪るには冷酷な西東京バスのダイヤに押され、涙を飲んで寄小屋はまた次回へ持ち越しとした。
群生までは行かないが、ヤマツツジは其の先の夏の躍動を彷彿とさせるピンク色に燃えていた。森を愛で、森の有りの侭を受け入れ、アントニオは今日も山道をゆく。鴨沢への下り道は雲取を目指す者の人いきれが止まない。MTBを担いでいる者も居る。然し、もう午後にもなろうと言うのに未だ未だ登山者が後を絶たないのは如何なものだろうか。今日は天候に恵まれているから良いだろうが、不届き千万と思う。
日帰り行脚向け小ザックが気付かぬうちにやや軽くなったかと思えば、ゴムバンドで留めていた筈のフリースをどうやら途中で遺失してしまったようである。はて、何処で?2,3分戻ってはみたが発見出来ず。むむむ。む。やがて、あのフリースと共に越えて来た数々の名山の思い出が走馬灯のように瞼裏のスクリーンを巡って行った。かなりのプレミアム物ではあるが、山に眠るのも本望であろう。合掌。
バスの時刻まであと15分を残し、R411に復帰した。鴨沢のバス停から少し奥多摩駅側に歩けば、酒屋が庵を待ち構えていた。冷蔵庫には黒ラベルとスーパードライが並んでおり、下山直後のイベントとしては銀色の缶に軍配を上げた。然し。
スカっと爽やか感が無い。俺は病気なのだろうか。今日の行程は5時間半程度とは言え、かなりの汗を掻いた筈なのに。何故琥珀色の液体は迸らないのだろう。登りの体力に衰え感は全くないのだが、胃袋が衰えてしまったのか。何か酷い疲れを背負っていたのか。スーパードライのロング缶を空けるのに斯くも難儀せざるを得ないとは。忌々しき事態である。
散歩程度に隣りのバス停、小袖川まで赴くと、背後に大きな観光マップの看板が構えていた。成る程!今気が付いたが、隣りのバス停留浦との間に県境が存在し、此処は山梨県の丹波村なのであった。七ツ石山は県境の山であった。奥多摩駅から山梨県へは其れ程大それた旅ではないのだが、バスの本数も少なく、辺境感は否めなかった。
バスは次々とハイカーや奥多摩湖散策者を拾い集め、満員状態で奥多摩駅へと到着した。何となく温泉モードには今一つ線引きをしている自分が居た。今日は肉体が風呂ビールを渇望していなかった。大人しく鴨居に戻るとするか。

(完)

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

付録:

山旅アドバイス
・峰谷バス停、鷹ノ巣避難小屋にトイレあり。
・雪は最早ない。
・深山橋以西のバスは自由乗降可能。
・乗車時に整理券を取るか、バスカードをリーダーに通すこと。
(出来ない人多い)