白銀3歩。

不定期連載 山道をゆく 第30話
00/02/05 長野 八ヶ岳高原
【不足】 
新宿〜八ヶ岳高原ロッジ…周辺散策…
八ヶ岳高原ロッジ〜新宿…反省会
(〜:バス、…:歩き)
今回は、我が独立企画でなく、市販のツアーパッケージへの初の便乗であった。山岳ショップにてパンフレットを漁っているうちに見つけたものである。スノーシューと日帰りというキーワードでツアーが見つかり、これならひょっとするとメンバーが集まるだろうと思ったまでである。
 
新宿駅西口から、京王プラザホテルの駐車場に辿りついたのが、7:10頃。スノーシューをザックにはさみながら歩いていたら、おじいさんに声を掛けられ、「バス乗り場、行くんだろ?一緒に行くか」ということでついて行った。なるほど集まっているのは八ヶ岳方面だけの客ではない。MMC側からの参加者のうち、今回は重成が最年少であり、MMCシニアチームとかMMCアダルトチームなどと仮称をつけていたが、駐車場にいる面々を見ると、ツアーコンダクター以外に若い人がいない。我々でも十分ジュニアチームと言っても通用する年齢層である。
 
年齢層もあり、みな集合が早く、MMC隊員が一番集まりが悪かったが、それでも集合時刻定刻である7:30には既にバスは動きはじめていた。
 
新宿からはほどなくして首都高に入れ、中央道に続く。デッキの高いバスであっても防音壁が高く視界はよくない。やがて視界が開けてくると、富士が目に入った。ほんの僅かだが、バスの埼玉県側の車窓からも富士が拝めることが判った。新幹線の海側の車窓から富士が楽しめるようなものである。ただ、今日の富士は余所者である。遠くにありても思わない。今日は目指すものが違う。
 
土曜日の朝というのに、中央道は空いていた。もしかすると、山に行くには遅すぎる時間帯なのかもしれぬ。
天気は良く、気温も高めである。初心者向けコースだろうから、八ヶ岳と言っても標高はたかが知れているだろう。我々の目指す地に、果たして雪はあるのだろうか?
 
双葉SAでトイレ休憩を挟んだ。中央道を走る路線バスも同じ理由で軒並み停車していた。前回の三つ峠も、歩き始めると登山用下着の上にボロフリース一枚だけでも汗ばんできたが、今回はスキーウェアまで用意して来てしまったのは、確かにこの陽気に対しては誤算であった。
長坂ICを降り、有料道路などを通りながら、野辺山あたりを過ぎてゆく。途中から雪で路面が凍結しており、バスはチェーンを履いて進んだ。10時後半頃、八ヶ岳高原ロッジに到着。
 
雪は、あった。が---ロッジ前
コース説明やらレンタル品配布、準備体操で午前中はたったの30分程度の散歩にすぎなかった。トレッキングと言うには物足りなすぎる。通路は軒並み積雪がなかったり、、、Elderな方々が時折バンド不完全でスノーシューが脱げて立ち往生したり、高低差もほとんどなく、もうエネルギー有り余っちゃっテール!ストックも邪魔なほど、単純なコースであった。もっと、暴れさせろー!!

ツアーガイドが散歩の直前に、鳥の泣き声についての説明してくれた。八ヶ岳高原ロッジ周辺では、シジュウカラ、ヒガラ、コガラ、エナガが生息しているという。説明しているうちに聞こえた囀りが、どうやら春に縄張り確保?のための声らしく、鳥も季節を紛うほど気温が高かったわけである。

昼食は、ロッジ内である。重成はマイ・スノーシューを持っていながら夏用登山靴しかなく、防水(防雪)のためにスーパーの買い物袋をトレッキングシューズに巻いていたため、僕ドラえもんですぅ、状態であった。しかも、ロッジのレストランはかなり洒落ていて正装が相応しそうな豪華さであったが、それでも我が両足はドラえもんであった。私以外であれば、相当の勇気が必要であったことだろう。
 
どうせ日帰りツアーだから幕の内弁当レベルであろうと高を括っていたのだが、いい意味で裏切られた訳である。レストランに入るや否や、カレーのにおいがしたので、その程度でもよかろう、と思っていたが、なかなか席に付いても食事が来ない。スヮ、バイキングか!?サラダバーのようなものが左手後方に見えた。。。
 
しかし、給士がスープを持って登場してきた。続いてバターロール。皿もバターロールも予め温められている、という気の配りようである。
 

私のそれは、上昇しては、いなかった。

 
メンバーが、黄金発泡性麦茶を欲していた。前回、栂池にて缶入りのそれを持参してスノーシューで歩き回って飲んだ時は、生ビール指数が無限大に達しており、心は宇宙を駆け抜け、炭酸の気泡の一つひとつが胃袋を散弾銃のように突き刺し、人事を尽くして天命を待って正解であった、という気分であった。ところが、である。今日は、散歩しかしていない。万歩計のカウンタもまだ数千にしか達していなかった。日常業務で外出した時より遥かに劣る歩数であった。そんな訳で我がビール指数は上昇するはずがなかった。だが、メンバーは、顔をほころばせながら欲していた。隊長として、メンバーの欲望を満たすことも使命の一つである。仕方ない、ビールを注文することにした。
 
駆け抜ける喉ごしには程遠いものの、やはり昼からビールは、犯罪を犯しているようで気分がよい。
 
足跡なかなかまともな昼食を終え、フィールドに戻る。午後は2時間程度歩くというので、かなりの期待をしていた。午後には動物の足跡の説明があった。トレイルの周りには、うさぎが多かったようである。
午後は煩わしいと思ってストックは既にロッジに返却した。それでもシニアなツアーグループは、たいしたアップダウンでなくとも難儀をしていた。まるで、先カンブリア紀頃から雪の上を歩き続けていて、スノーシューはちょいと時代を先取りし過ぎた面々。でも、「・・・叱るな、行く道だ」
 
林の間でトレイルも狭く、抜くに抜けない。かったるい散歩をしばらくした後、視界が開けた。
 
雪を戴いた、美しい赤岳、硫黄岳。その美しさにシャッターを切る面々も少なくはなかった。しかーし!この程度の光景で満足しているようでは甘すぎる!歩いているのは標高千五、六百m程度だから、丹沢の最高峰周辺とか、尾瀬相当になるが、八ヶ岳は2,800mを越えているものもある。見上げて満足する俺ではなかった。いつかは、その山頂から、白銀に染まった下界を見下ろさねばならぬ。
 
所々、積雪が少ないため、雑枝がむき出しになって引っかかったりするようなコースであった。すると、我がメンバーの一人が、ロングストライド・イナズマタラマーク・ターンを決めたかのような美しいフォームで前足をかなり前方の雪の上に初代Colobistに劣らずゆっくりと落ち着けた0コンマ3秒後に、尻餅をついていた。気付くと、持っているストックも左右バラバラであった。以前、我が上司が、左右違う色の靴を履いて出勤してきたことがあったが、、、
 
キツネが狩りをした跡もあった。鼠狩りである。鼠は雪中にトンネルを掘りながら進んで行くところを見つけては、大ジャンプをして鼻先からその穴と思しきところを目掛けるらしい。その跡をラッセルしていけば鼠の居場所が突き止められるとは思ったが、鼠界の平和を願って止めることにした。
 

嗚呼、八つ。

編笠被った権現様。西、赤、横、硫黄。天狗様と阿弥陀様、そして、八ヶ岳。

エネルギー燃焼未遂のまま、ゴールのロッヂが近づいてきた。ツアーパンフにあった、「散策後はあったかい紅茶などを・・・」というのは、缶入りのそれでしかなかった。
 
万歩計を見た。1万歩に達していない。しかも、重成庵から鴨居駅まで2,500歩ほどあっても、である。エネルギーが有り余るわけである。
 
スノーシューを返却しては、疲労の色の濃い面々を乗せたバスは、大泉あたりから往路からそれ、林間を西へと向かっていた。そして、パイの家があった。

観光バス客目当てに、試食品を並べて待ち構えていた。疲労の色の濃い面々は、瞬く間に脱兎の如くパイに群がり、ハイエナの如く貪り摘むでいた。甘い物前線も停滞気味ではあったが、試食品を見過ごすわけにはいかぬ。仕方がないので3切れほどいただいた。なかなかの美味であった。アップルパイは、パイ生地作成が面倒そうなので、まだAnton Bakeryのレパートリーにはなっていなかったのである。

山積みになっていたアップルパイの箱々は、飛ぶように売れていった。疲労困憊な面々を捕まえては、まさにパイの家の思う壺であった。明日は知人の家で、トンジール2000大会があるので、久々にずんだ庵から秘密兵器投入を模索していたが、ついものぐさってしまい、重成も結局パイの家の思う壺に収まるように、アップルパイを買っていた。悔しい。が、美味い。
バスは一路、中央道を東進していった。土曜の夜ということでほどよく流れていた。帰路では談合坂SAでトイレ休憩であった。談合坂SAといえば、下道を行かない限り、ほうとうを嗜む領域であろう。然れども、ほうとう指数すら上昇せず。そして、ほうとうは生き延びた。次回会うのは、10月頃であろうか。
安全運転なバスは、首都高を降りて、19:45頃、新宿西口に到着した。
新宿についた面々は、仕方なく反省会へと流れて行った。飲み屋の座敷の片隅に、ザックなどを積み上げてみると、山から帰ってきた、という気分ではあるが、如何せん、まだまだビール指数上昇には程遠かった。しかし、目の前に登場してきた以上、ああでもない、ゴックン、こうでもない、ゴックン。やれ、あれはいかん、グビグビ、これなかなかだったぞ、プハぁ〜。実りある反省会であった。なぜならば、生が180円だったからである。今日もまた、黄金色の発泡性液体が、重成の胃袋(ブラックホール)の深遠(たきつぼ)へと消えて行った。

間違いなく今日も、山にて失ったエネルギーを補って余りあるエネルギーを、吸収してしまった。また反省しなければならない。ただ、反省は繰り替えず。反省は次の反省を生む。ラーメン博物館の3ヶ月パスによるスタンプラリーが如く、それは無限ループになるのである。

わかっちゃいるけど、辞められない。

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付録:

山旅アドバイス
・スノーシューのパッケージツアーは、若者が行くもんでねぇなぁ。(ボソッ)

・天気によっては、山用下着+フリースで事足りる場合もあるが、山に何があるか判らないため、ゴアテックスのレインウェアや、ウィンドプルーフ系の上着着用を強くお勧めする。スキーやスノボウェアも可。サングラスもしくはゴーグルに日焼け止めも。登山靴もできれば冬用を用意
すべし。