夏の日。

不定期連載 山道をゆく 第136話
03/08/24 阿弥陀岳
03/08/24 阿弥陀岳(八ヶ岳、庵選千名山236)
【夏の日。】

8/23(土)
庵庵−町田街道−碁邸−八王子バイパス−八王子IC−

8/24(日)
−双葉SA−小淵沢IC−八ヶ岳高原線−美濃戸の林道途中…行者小屋
…中岳道…中岳のコル…阿弥陀岳…中岳のコル…行者小屋
…美濃戸の林道途中−八ヶ岳高原線−スパティオ小淵沢・森樹
−小淵沢IC−初狩PA−八王子IC−八王子バイパス−碁邸−町田街道−庵庵

−:車、…:歩き

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
偶には実家にでも寄らねばと画策していたところ、碁氏から、今週末も天気が良さそうではないかとの提言であった。関東近県には本夏は来ぬまま、残暑が到来した。夏は本来暑くあるべきだ。然し金曜は何時に仕事が終わるか不明であった。結局身から出た錆びも祟って電話会議などでまた時計の針は26時を軽く回り、其の後飲んだ呉れて帰宅した頃には日も既に高かった。昼迄眠って午後には実家に顔を出し、ノンビリと土曜を過ごす。夜には支度を済ませて夜食を摂って庵庵を発った。偶に渋滞に嵌るそうだが、相模原までR16を利用しないルートを模索し、町田街道に季節外れの道路工事に幾度か阻まれたものの、鴨居から1時間弱で碁邸に到着した。林道の起伏具合の記憶も既に飛び去っており、休部の車高の低さとの整合性に一抹の不安を覚えたものの、一念発起して其のまま休部号で遠征継続と相成った。
碁邸を出て其のまま北上すれば八王子バイパスの入口で、道も覚え易く今後は「使える」ルートのように思う。中央道も適度な交通量であり、今回は小淵沢ICまでと、先日に比べて大分負担も少なかった。小淵沢ICで下車してコンビニに寄り、八ヶ岳高原線を疾走すると、其れ程の時間を要せず美濃戸口に到達した。確か一昨年前の縦走時には、周囲の駐車場は無料だったように思うが、今年は有料である。是なら奥まで行くべきだろう。然し。
林道は、想像以上に起伏が激しかった。
休部号には拷問のようであった。田上明のフェイスクラッシャー、或いは疲れて飛距離の目測を誤った天山広吉のダイビングヘッドバッドのようなぎこちなさを始終感じながら、暗闇の林道を転がすのには骨が折れた。途中、開けた地点だからか、数台の駐車車両が確認された。こ、是は、駐車料金ケチり組ではないか。庵的には駐車料金の惜しさより、是以上ギクシャクとした林道を運転するのは耐えられないと観念し、碁氏にも了承を得て道の脇に停めることにした。見上げれば、雲はやや多目だったが、星の数は無尽蔵であった。翌朝は冷えるかも知れないと、長ズボンを履いてシートを倒した。
今回も寝坊してしまった。4時台に目覚めた碁氏によると真っ暗だったと言うし、昨日は運転疲れが残っていたのかと思う。もう5時寸前である。そそくさと支度をしていると近くに駐車していたお爺さんが赤岳鉱泉方面はどちらかと尋ねて来た。地図は見たのか持って来たのか、逆尋問したが、結局初心者一人であまりにも標識がないから不安に感じたと言う。山には本来標識などないのだ。初心者一人で不案内で、我々の他周囲に頼れる者が不在ならば、一体どうしていたのだろうか。
林道は其の先も思ったより長かった。美濃戸山荘までは15分程度歩いたことだろうか。麦茶タイムには未だ早かろうと心を鬼にして旅支度に小忙しい老人の群れを打ち遣り、南沢ルートへと歩を進めた。雲はやや多目だが、赤岳稜線に映える朝焼けにエネルギーを貰い、南沢の轟音を聞いた。水音などと言う表現は生易しい。水瀑と形容するに相応しい轟音が鳴り響き、この水で酒を仕込めば美味請け合いと確信した。水は激動の南沢に煽られていた。水の力、生命。少し、目が覚めたように感じた。
割となだらかな道の先に横岳や硫黄岳の雄姿が明るく照らし出された。行者小屋も近かろう。急げ。
二年振りの行者小屋に驚きを隠せなかった。旗が靡いているではないか!一昨年前には存在しなかった掘っ立て小屋である。生ビールとおでんを供給しているようだ。然し、朝も早いためか、既にシーズンオフと思われているのか、営業していなかった。今日の是からの長丁場を心配すれば、未だ麦茶タイムには時期尚早ではあったが、行者小屋にも構造改革のメスが投入されたことは日本山小屋生ビール普及振興会副会長としての冥利に尽きた。然し、飲めぬ麦茶に現を抜かしているうちに、先程までくっきりとした赤岳山頂方向にガスが充満しつつあり、地蔵尾根から赤岳経由の阿弥陀行きを急遽阿弥陀直登に変更した。ガスよ、赤岳に止まっていてくれ。阿弥陀には光を!
行者小屋の喧騒の殆どが文三郎尾根に流動し、尾根には人間渋滞がくっきりと見て取れた。其れ程までして赤岳直登に拘りたいのだろうか。それにしても朝もハヨからヘリコプターが喧しい。怪我人でも発生したのだろうか。あの混雑振りからして、発生しない方がおかしいかも知れないが。文三郎尾根の交通量を忘れた中岳道では我々のみが辛うじて光に照らされているような日の光を感じつつも、次第にガスが東空より漏れて来ている。ううむ、今日は庵八ヶ岳史第一章の終幕と言うのに、ガスに塗れて終わるのか。峰ノ松目、赤岳、横岳、硫黄岳、編笠山、西岳、権現岳と七峰を既に満了し、阿弥陀を残すのみであった。七峰は粗晴天下に満了したのだ。阿弥陀籤、阿弥陀籤は本当に引いて楽しいのだろうか。中岳のコルに到達した頃には僅かな光明が射した。およ!あれは富士ではないか!何時しか風にガスは流されつつあった。風、頑張れ、モスクワは近い。金峰に三つ峠方面も覗く。然し、ヘリが五月蝿い。周囲は8月と思えない寒さである。嗚呼、またガスが過ぎる〜。
阿弥陀籤、降臨。

阿弥陀は斯くしてガスとの戦いに勝利の雄叫びを上げた。360°、感動のスペクタクル。阿弥陀岳山頂からは何が見えると言うのか。木曽駒ヶ岳、甲斐駒ヶ岳、北岳、金峰山、富士山、道志御坂山塊、うほほ〜、北アも満喫だ。横岳硫黄岳赤岳もくっきりしてきたぞ!地蔵岳のオベリスクも!脳裏には森高の「夏の日」がリフレインして止まない。海辺の歌が山に響き渡る。静かな、そして感動の夏の日。海の青と空の青との違いはあれども、心が研ぎ澄まされて行く。奥秩父山系に茅ヶ岳、恵那山、あ、北アのあれは槍ヶ岳に穂高連峰、あの山並みは剱岳だな、乗鞍岳も当然見える。白馬岳に蓼科山、車山に美ヶ原も輝き、浅間山に塩見岳、仙丈ヶ岳、赤石岳など、、、第一章終幕に相応しい青空!!!碁氏も喧騒の赤岳には終ぞや目も呉れず、暫く阿弥陀スペクタクルに溺れるしかなかった。山小屋も至近になく、静寂内にパノラマを貪れる絶好地であった。阿弥陀籤は大当たりだ。

下山時、振り返れば青空が堪らなく深い。無限遠へ広がる深青。何処までも青。奥深く、、、
庵速で行者小屋に戻れば、をぉ、生麦茶小屋がシャッターを上げていた!行者小屋に生麦茶!一昨年前は赤岳鉱泉では生麦茶祝杯を上げることは可能だったが、外湯の受付をしていなかったのであの小屋のオヤジにはマイナスの印象で終わっていた。この地では湧き水も冷たく、水冷缶でも十分な満足が得られたものであった。然し、今日、此処行者小屋に生麦茶、降臨だ。夏の日に迸る、黄金水。この夏は寒い日が続いたからさぞかしおでんが飛ぶように売れたことだろう。然し、今日は夏の日なのだ。ビールタイムなのだ。
行者小屋からも何故か庵速にもがき、下り道でコースタイム1時間40分の所を1時間に切り詰めることに成功した。なだらかな下り道に40%の時間を縮めることは猿になる他、ない。一昨年前、地ビール有りの看板に地団駄を踏んだ美濃戸山荘を今回も通過し、物の怪に取り付かれたかのようにストイックになって休部号駐車場所に舞い戻った。ムム、此処は林道が上下線に別れている、、、と言うことは、どれだけか不明だが、未明には休部号も逆走をしていた計算になるのか。。。新聞を読みながら碁氏の到着を待つうちに、何台もの車が美濃戸口方面へと下って行った。そのうち半分くらいは上下線分離に気付かず逆走して行った。先で困らないのだろうか。。。やがて碁氏が到着。美濃戸山荘で牛乳休憩をしていたようである。山荘に拠れば、ヘリは矢張り怪我人を搬送していたとのことである。あれでは事故も起きるだろう。。。
帰路も恐る恐る休部を転がした。上下分離線を知らずに美濃戸口方面から逆走して来た車は何とか1台程度の空きスペースで打ち遣った。上下分離区間は開けて見れば意外に短く、其の後も対向車が来てしまわないかとヒヤヒヤしながらローかセカンドで何とか凌ぎ切った。美濃戸口の林道出口にパリの灯を見た。美濃戸口からは快調に八ヶ岳高原線を飛ばし、スパティオ小淵沢へは其れ程の時間を要しなかった。日曜の昼過ぎは意外と混雑している。確かに未だ夏休みだ。さすがに洗い場では待たされることもなく、すっきりと汗を洗い流すことが出来た。今日の露天はやや湯温が高目か、夏場だから致し方ないのだろうか。時刻的に森樹は混雑していたものの、我々の到達と共に丁度1テーブル空き、ハーブ入りコロッケ定食を嗜んだ。3度目のスパティオ、森樹に車で到達と言う進行には、若干山行の満了感が損なわれるのは致し方ないものであろう。
スパティオから高速乗り場へも指呼の間で、流れも暫くは順調であった。満を持して初狩PAで小休止をし、直に紛う事無く沸き出る諦念に備えた。大月過ぎまでは矢張り順調だった。そして、今日も8月に入って3度目、恒例の上野原・小仏ダブル殺人ブロックであった。時刻的にも前回より早くこの地域に達し、長さも更に短めの渋滞に納まっていたのだが、全く嬉しくはなかった。前2回の経験則上、一番左側の車線が数馬身差程度でアドバンテージのあることは証明されたが、上野原IC以降の2車線化後は早めに追越車線に移るのが得策のようであった。今回は見逃しの三振だった。そして、1時間超の牛歩の後、小仏トンネル中程から堰を切ったように流れ出し、丸で高速道路を走っているかのような錯覚を覚えたのも是で3度目であった。元々高速道路を走っていた筈だが、、、
八王子バイパスの出口で再びR16に別れを告げ、其の後も町田街道で若干の渋滞に苛まれたものの、後半はマズマズのロスタイムで済み、未だ日の高いうちに帰庵出来た。嗚呼、林道で大分汚れたな、休部。

(完)

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付録:

山旅アドバイス
・急がば回れ。最短ルートは混雑が激しい。
・美濃戸口からの林道は起伏が激しい。床の低い車は不向き。
MTBでは逆に楽しいかも!?