演習

不定期連載 山道をゆく 第147話
03/12/18 愛鷹山
03/12/18 黒岳(庵選千名山256)、愛鷹山(越前岳、日本二百名山、庵選千名山257)
【演習】

12/18(木)
庵庵−中原街道−保土ヶ谷バイパス−横浜町田IC−中井SA−御殿場IC
−R469−山神社・愛鷹山登山口…愛鷹山荘…富士見峠…黒岳…富士見峠
…鋸山展望台…富士見台…越前岳…富士見峠…愛鷹山荘
…山神社・愛鷹山登山口−大野路温泉−R469−R246−環状4号−庵庵

−:車、…:歩き・走り

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あれから1週間と経たぬ間に早くも東名リベンジの機運である。どうにか夜遅くまで残務をやり繰りをし、振り替え休日を申し込む。
先週ETCレーンへの進入を失敗した保土ヶ谷バイパスからの東名高速進行の復讐、否、復習を兼ねていた。今日はずれるまい。慎重に保土ヶ谷バイパスからゲートに侵入した。今回は数ミリも違えなかった。ETCレーンには紫色のランプが煌々と点っていた。町田ICでETCを使えると存分の優越感である。今日は勝った、勝ったのだ。
今日の中井PAでもどうせジャンボメンチカツは揚がっていまいとは思ったものの、何故か駐車場に吸い込まれてしまう。そして、前回気が付かなかったのか、あの大きな壮大な莫大な肉まんが所狭しと湯気を撒き散らしていた。何故前回は気が付かなかったのだろうか。灯台肉暗し。小食の女性は間違いなく平らげることが不可能なジャンボ牛肉マンは、今日もピリ辛で、睡眠不足の胃袋には衝撃は強く、一抹の悔恨を呼び起こしていた。
御殿場ICでも数台を抜き去り、国道へと赴く。嘗て、原付で朝霧高原の西、毛無山まで至ったルートである。帰路駿河小山近辺でエンコし、愈々ゲームオーバーかと心配したが、何故か生還した。今日は休部だ楽ちんだ。裾野市外れの原野に思いを馳せながら、難なく登山口への脇道を発見した。山神社の駐車場には1台も先客が見当たらない。冬の平日の午前7時台に誰もおるまい。今日は独占だ、と意気揚々と登り始める。斜に注ぐ陽光が早くも眩しく、光合成が激しく進む。愛鷹山荘を打ち遣り、富士見峠へ至れば、林間から巨大な富士が覗いていた。未だそんなに大きくなくても良い。黒岳では目に物を見せて貰える筈だから。
黒岳からは台本通り巨大な富士が聳えていた。もう何も言うことは無い。ただ其の場に立っているだけで銭が取れる富士である。ただ、人工的な色分け具合が其の裾野を侵食していることを思うと残念でならない。然し、雪を被った南アの雄姿に見惚れて苦悩も忘れてしまう。
平和の象徴の富士を横目に、朝も早よから演習場からの爆音が界隈に轟いていた。演習なくして実践なし。実践しないで済む世相が望ましいが、仕方がなければ止むを得まい。無事を祈りたい。
山頂直下の富士見台からの眺望も甚だしく、この地からの富士の雄姿が古の50銭札紙幣の絵柄として採用されたと言う。
アントニオは何故か登りさえも駆け登ろうとしていた。もしかすると山頂オフィスには定時出勤に間に合うのではないか。仕事を捨て去って来た筈が、未だ脳髄は洗脳されていた。思わず新横浜オフィスへ業務メール発進さえしてしまった次第である。山頂オフィスには霊長類1匹たりとも見当たらず、との書き出しを目論んでいた物の、十里木方面からおじさんが一人やって来てしまった。嫌、おじさんに全く罪はない。何故今日登って来たのか。話を聞けば、笊をやろうとしていたと言う。「でもさ、ついこないだ雪被ってしまったから」とのことである。笊を止めて越前岳か。越前岳と比べられた笊が哀れと言うべきだろう。コースタイム十数時間の笊なのだ。しかもこの冬の季節に。このおじさんは兵なのか。眉唾おじさんだろう。頑張ったのだが実は定時時刻に数分の遅れを伴って至った越前岳山頂オフィスであった。
山頂からの展望は、眉唾おじさんの悪夢を払拭して余りある豪快さであった。当然富士は指呼の間だ。愛鷹連峰の呼子岳や位牌岳が朝日に燃えている。富士市の製糸工場には白煙が立ち上り、駿河湾を見下ろしていた。南アルプス南部は未だ冬支度の最中、空気は澄んで深く青い。北岳や御岳に恵那山あたりも確認出来る。先週の北岳に比べれば、此方は南壁だからか幾分雪量が少ない。そして此処も山頂碑が団子になっていた。長野県御座山、山梨県富士見山に引き続き、静岡県越前岳も山頂碑団子組合に所属していたのだった。だが、一つ、腑に落ちないことがあった。
 団子が、小さい。
其の場で確認をしなかったため、帰宅してから団子の大きさの現実を証明する写真を撮影できていなかったことに気付き、悔恨は募る。
山頂から下りつつも演習の爆音は鳴り止まない。そんな中、アントニオは今日も山道を駆け下りていた。怒りのスソノンであった。
往路には気が付かなかったが、3張りくらいテントの張れそうな愛鷹山荘至近に銀明水なる湧き水が滴っていた。冬は涸れるとガイドには謳われていたが、アントニオは紛うことなく其の清水を頂いた。
WWWで紀行文などを読み漁っていると、登山口近辺に温泉の割引クーポン券がある筈だが、、、小鳥の巣箱は蛻の空であった。温泉の主には交渉をしてみるとするか。
10分程車を転がすと、大野路温泉に到着。幾多の遊戯施設が隣接しているのか、肝心の温泉が何処か寸分悩んだ。確かに平日の午前中、遊戯施設は愚か、温泉にも人は居るまい。
オジサン曰く、「貴方も自衛隊ですか」。直前のお客さんは自衛隊員だった模様である。自衛隊割引があるのか。然し、馬鹿正直なアントニオは、登山口脇の小鳥箱にあるべき割引券がなくなっていたことを引き換えに、割引券割引適用を目論んだのだが、「ないのでは仕方ありませんねぇ」と連れない返事で、漱石さんのお釣りは100円玉若干2枚にしかならなかった。99%、あの場面で私も自衛隊員です、と回答してもバレなかったであろう。正直者は損をした。
だが、此処の露天風呂には負けた。洗い場も露天となれば若干の寒さは否めないものの、頗る愉快であった。椎の巨木を刳り抜いた天辺風呂は、其の高さ故に国道から丸見えに近いが、そんなことを気にしていたら日本人は風呂には入れない。椎に抱かれて男ならば嵐乗り越えて波の上を行こう。夏場や休日ではギャラリーも多く、必要な勇気の度数も鰻上りではあろうが、富士の裾野に相応しい天辺風呂に世は満足であった。
帰路は未だ未だ昼頃である故、高速を使わずとも左程時間を要すまいと思って暫くはR246に身を委ねた。だが、結局R246は失敗であった。松田までの交通量に飽きが来て高速に乗ろうと一瞬躊躇ったが交差点が若干混んでいたのでパスしてしまった。是が敗因であった。松田ICを過ぎると残りのICはR246からは可也離れている。厚木から先はR246も片側2車線になるため何とか流れるだろうと高を括っていたのが誤算であった。厚木近辺は未だ流れていた。R16交差点に近付くにつれ、滞りには我慢がならなくなった。嗚呼、矢張り、金は時なり、だ。日本道路公団の差し金だろう。高速は偉大だ。時間が惜しければ金を使え。

(完)

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付録:

山旅アドバイス
・愛鷹山荘利用時は要予約。
・大野路温泉は自衛隊割引あり。