山岳猪木祭り

不定期連載 山道をゆく 第149話
03/12/30 源次郎岳、達沢山
03/12/30 源次郎岳(山梨百名山、庵選千名山258)
達沢山(山梨百名山、庵選千名山259)、ナットウ箱山(庵選千名山260)
【山岳猪木祭り】

12/30(火)
庵庵−R16−県道57号−R412−R20−相模湖IC−談合坂SA−大月IC
−嵯峨塩林道入口…源次郎岳…嵯峨塩林道入口−景徳院駐車場−R20
−県道34号−R137−立沢林道途中…鞍部…達沢山…鞍部…ナットウ箱山
…鞍部…立沢林道途中−R137−R139−紅富士の湯−R138−御殿場IC
−足柄SA−横浜町田IC−中原街道−庵庵

−:車、…:歩き・走り

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昨日山に赴いた筈ではなかったか。忘年行ではなかったのか。昨日の同行者には申し訳ないが、あれで今年度の山を終える訳には行かなかった。幾日も暖め続けていた山行プランのうち、渋過ぎて知人を誘うには憚られそうな2山を厳選しては今日も中央道を目指した。30日とは言え、否、30日だからなのか、何時にも増してサンデードライバーが目立ち、偶には高速代をけちろうと相模湖ICまで下道を使おうとしたが幾重の敵に阻まれていた。敵は案外凍結路面から身を守ってくれていたのかも知れぬ。礼には及ばぬと逆台詞で料金所で滞る面々を傍目にETCレーンを疾走して掠め、漸く中央道の人となった。
大月まではたったの800円ポッキリではあったが、サンデードライバーの多い下道を行くと思えば時は金なりであった。勝手知ったる甲州街道にトラックを追い駆け、景徳院入口で脇道へと逸れる。果たして路面は凍結してはいないだろうか。一抹の不安は過ぎる。出発時刻は微妙だったろうし、R16を直進して八王子バイパスから瞬時に至っていたら、などと総合すると相模湖ICまでに阻んだ車の群れも強ち筋書き通りの登場だったのかも知れぬ。田野の湯より先は案の定断片的にではあるが、溶け切らなかった残雪が氷結していたが、大事には至らなかった。ゆるりと休部号を推し進め、嵯峨塩鉱泉を掠め、嵯峨塩林道入口に到達した。WWWの紀行文中の太字の示す登山路とはどうも勝手が違いそうである。本文中には嵯峨塩鉱泉から約1.6kmと言いながら、当人は鉱泉から数百メートルの地点から山へ向けて太線を引いているのだ。然し、此処林道入口にひょっこりと源次郎岳の道標が確認されたので、細かいことはまた来年考えることにして出発した。
ガイドブックなどには藪漕ぎは免れないと脅されたものの、この林道は舗装されており快適過ぎて困ってしまう。数箇所目のコーナーを曲がれば、をぉ、今日も魔白な富士ではないか。好天の日溜りを貪れ。パウダーシュガーを纏った富士は今日も美しい。林道を登り切っても未だ分岐に到達しないと焦ればやや下った地点から踏み跡が山頂を向いていた。是が藪か、と疑いかねない程、冬枯れで踏み跡の鮮明な山道を数十分漕げば、またホワイトホース富士が待ち構えていた。アントニオはこの地からバニラジェラートの煌きを確認する今年最後の霊長類か。雪を踏みしめ藪を漕ぎ、放射冷却を極めて研ぎ澄まされた冷気の中、削げ落ちた落葉樹に囲まれ誰もいない冬を纏いながら、アントニオ版猪木祭り、と書くと、意味不明だが山岳という四角くないジャングルでの猪木祭りで1人今日も戦場に赴いていた。陽光を浴びながら、やがて静寂の源次郎岳に到着。ほっとした。林間に全世界が見える。北ア、南ア、金峰、甲武信、御座、雁ヶ腹摺、、、覗く甲府盆地では年明けを控えて慌しいのだろうか。誰も居ない空間に、其れは知る由もなかった。今年もご苦労さんでした。
一応昨日の疲れも祟ったか、腸子も今一つ、景徳院駐車場のトイレを借りる。其の後は甲州街道を西へ走り、長閑な県道34号を貫く。トークマラソンの舞台にはならない、甲州街道より南側の葡萄農園を掻い潜るとR137は指呼の間であった。随分と田舎なのに二車線区間、登坂車線の連なる国道で、思わず林道への分岐を見過ごしてしまった。立沢のバス停へ戻り、1車線ぎりぎりの脇道を伝い、林道を発見する。律儀にも以遠は凹凸が激しいため四輪車は控えるべきとのお触れに従い、車を置いて歩き出す。此処のコースタイムもはっきりしておらず、詳細地図も持ち合わしておらず、腸子は中々上向かず。指導標の備も覚束ないものの、だからこそ単独行脚、年末締め括りの山行に相応しい佇まいである。山には本来導はなかったのだ。
寂しげに林道を進めば、一応、ガイドブックに謳うよりは指導標が案外散見された。飽きの来た林道と別れた後も、此方の道も踏み跡がしっかりと付いている。伐採されたままの杉林の急登を喘げば、またも魔白な富士が粋な肌を惜しげもなく披露し立ちはだかる。今年最後の山梨百名山。今年最後の富士。嗚呼、良く登った。嗚呼、無駄に登った。だが無事だった。ガイドブックには其の存在も適わなかった百名山碑に一礼し、今年最後の山を目指そう。
鞍部指導標には京戸山の欠片の微塵も無い。だが、寸分の藪あれども此方の踏み跡も問題ない。一年の思いを背負い、アントニオは落ち葉を踏みしめて、今日も登る。何時かは貴方の住む山へ行くかも、知れません。ガイドブックに拠るところの近隣の山:京戸山は達沢山より30分程度で展望は効かないとのことである。然し、山頂碑は京戸山ではなく、ナットウ箱山と名乗っていた。標高はガイドブックの記述と相違ない。山頂碑が割りと新し目であるから、姓名判断故に改名したのだろうか。然し、ナットウ箱とは。ナットウ藁のネーミングであれば何となく其の特異性を認識出来ようものの、箱である。あの、発泡スチロール製の、3段重ねパック100円程度でスーパーに見掛けるあれのことを指しているのだろうか。名付け親は此処で納豆弁当の蓋を開いたと言うことか。7年前、富士宮口5合目へ赴くバスの中で白米に納豆を掛けて食べたアントニオを其の奇天烈度では凌ぐことは難しい。確かにあの時の納豆臭が山の神の逆鱗に触れて5合目に大嵐を齎した可能性は残念ながら否定は出来ない。故に富士山は未だにナットウ箱山とは呼ばれてはいないのだ。今年、何とか生きてきた。周囲の万物に感謝せねばなるまい。果たして、逆に、自らは万物に何らかの貢献が出来たのだろうか。そんなことを考え始めると、納豆の足元にも及ばない自分を蔑まざるを得なかった。
ナットウで登り収めて、さて、何処の湯に浸かるか思案を重ねる。暮れは30日である。往路に掠めたももの里の湯は休業であった。石和温泉にも興味はない。笛吹川温泉まで足を運ぶのも億劫だ。R137は河口湖へと続いている。そうか、紅富士の湯なら今日でも営業しているのではないか。そう思いながら再び御坂の道を休部号で登った。河口湖畔は予想通りの喧騒である。この季節に彼らは湖畔に何を求めているのだろうか。暫し渋滞に巻き込まれながらもR139へ導かれ、相変わらず駐車車両の溢れる紅富士の湯に到着した。駐車車両の数の割には洗い場で待たされることもなく、また、露天も2槽あり、檜風呂側の湯温が台本通りに温めで登り収めに相応しい労りを提供してくれた。30日ともなると、何とはなしに交通検問に捕まりそうな予感は募り、ぐっと堪えて湯上りの生麦茶を退けた。
R138へ近かろうと紅富士の湯から国道に戻らずに湖岸道に並行していると思しきルートを林間に模索する。R138はもう時間帯的に凍結は免れているものの、交通量は少なくはなかった。入場ゲート等にも特に渋滞情報はない。さて、乗るか。
東名高速にはサンデードライバー車が犇いていた。追越車線に入ったが最後、車線変更の出来ない車が多く、度々のブレーキングには肝を冷やされた。一番左側の車線が流れている。然し、今日は30日なのだ。交通量が多いのさ。それでも80km/hは出てるか。高速道路だな。速いのだ。事故に合わなければ万々歳。ゆっくり行こうや。町田ICで数十台をぶっ契って紫ゲートを潜り、休部号は何事もなかったように夕暮れのズーラシア前を通過していた。
(完)

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付録:

山旅アドバイス
・嵯峨塩林道入口付近に数台の駐車スペースあり。
・冬季は踏み跡も明瞭で藪漕ぎに大きく悩まされることはないだろう。
・立沢林道途中にも数台駐車スペースあり。立沢林道は可也起伏が激しく
低床車は不向き。