未遂

不定期連載 山道をゆく 第148話
03/12/29 麻綿原高原
【未遂】

12/29(月)
庵庵…鴨居駅−新横浜…環状2号−三ツ沢IC−アクアライン−木更津北IC
−R409−県道81号−麻綿原高原駐車場…天拝園…林道…天拝園展望台
…麻綿原高原駐車場−滝見苑−県道32号−県道23号−木更津北IC
−アクアライン−花之木IC−鎌倉街道−上大岡・やまざき−庵庵

−:車、…:歩き

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山道具を新調した知人が低山を模索しているうちに、とある事件が発生していた。事故ではない。事件だ。どうしてあれを事故と呼べるか。本当に事故なのか。残念ながら当事者ではないため其の真意は謎である。ならば現場に赴いて検証をしてみるか。フルマラソンを走らずして高橋尚子を批判するべからず、だ。
山に行く筈なのに、我々は海の上を渡っていた。其処に事故の事件性も潜んでいると言うべきか。恐らく其の大半はゴルフ場へ赴く車列の中から県道81号線へ抜けた車は我々の以外には見当たらなかった。房総半島とは言えども此処まで奥まると随分と遭難度合いも高まるものである。トンネルを数箇所抜け、森の中、麻綿原高原の駐車場に到達した。この季節に是から何かをしようなぞと思う者は我々の他には皆無であった。
すぐ先の天拝園へ赴けば、番犬と思しき犬が4匹、普段見掛けぬ霊長類を警戒して吼え捲くっていた。どうも紫陽花を荒らす猪や鹿を追い払う役目らしい。さて、麻綿原高原の中心地である。事故は一体何処で発生したのか。何も分からぬ面々は、取り敢えずは清澄寺方面を目指す。林道からは緑の山並みを越えて太平洋が覗く。林道を沿えば何ら難しさを感ずるルートでもない。清澄寺から養老温泉付近までが約13kmの道程のようだ。ツアー終点地から即温泉が妥当と考えると、清澄寺近辺で事故が発生したとは非常に考え難い。結局太平洋の風を殆ど感ぜずまま、折り返して天拝園へ戻る。
天拝園から先が9kmもあれば何処か迷える場所もあろう。然し、舗装された林道をそのまま沿えば、矢張り此方も相当容易いルートである。林道沿いに幾つか山道が折れていた。試しに模索を始めたものの、数分で藪に突入してしまった。をぉ、是なら事故が発生してもおかしくない。この藪で日も落ち掛けていれば遭難は目と鼻の先だ。ただ、中高年が斯くも歯応えのある藪漕ぎルートを選択したものであろうか。大人数だったことも考えると、是も選択肢としては不十分のように思う。藪漕ぎを断念して再び林道に戻れば、矢張り糸口は見えない。横瀬の集落方面へ落ちてしまったのか。時折広がる風景に紅葉は見当たらず、やんばるの森を見続けているかの錯覚に陥る。然し、日も落ちればやんばるも何もない。ライトさえあれば林道を外れることもないだろう。
結局何が彼等に事件を起こさせたのか判別せぬまま、林道歩きに飽きた面々は高台は開けているであろうと望んで無線塔付近を攀じ登り、昼時の空間を模索した。残念ながら高台には無線塔以外に立錐の余地もなく、展望も何もない。展望を抑えながら昼飯をと思っていた面々の野望を潰え、すごすごと高台から降りた。一昨日の暴飲暴食で腹を下して体腸も覚束なかったためか、意気消沈としたままアントニオは天拝園へと再び林道を戻ることにした。
そもそも事件現場検証等との心掛けが良くないのだろう。其の憂さは天拝園展望台からのやんばるの森と太平洋の特大展望で払拭すべきであった。海風もやや強く、非寒冷地仕様のガスボンベは暫し息を引き取りながらも何とか3人分のコーンポタージュを満たし、ソーセージを茹で上げさせるだけの湯を沸かすに至った。展望は果てしない。ただ、季節感が乏しい。やんばるの森はただ青々としていた。風の冷たさだけが冬を物語っていた。
駐車場から再び県道へ戻り、滝見苑に寄る。養老温泉街よりやや南側に外れて目立つものの、此処まで来る客も疎らなのか、季節的要因か定かではないが昼下がりの滝見苑は山間部の露天風呂の大らかさに包まれていた。やんばるの森を慈しむ黄昏時の斜陽に全身の洗濯であった。
帰路もゴルフ帰りの車に紛れては海ほたるに寄る。海峡を渡る夕暮れの海風に鴎の飛来が恋しい、そんな素振りを微塵も見せないゴルフ親父の○○捨山の様相を呈していた。
やまざきでは紅白歌合戦の前哨戦番組がブラウン管を賑わし、酒鍋宴に余興を添えていた。忘年会に鍋は踊る。今年ももう終わりか。そんな筈だった。
(完)

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付録:

山旅アドバイス
・麻綿原高原界隈は、紫陽花シーズンの6月20日から7月31日まで
交通規制あり。