寸分の秋。

不定期連載 山道をゆく 第113話
02/11/17 帯那山(山梨百名山、庵選千名山195)
11/17(日)

庵庵…鴨居〜町田−八王子IC−勝沼IC−帯那山登山口
…帯那山…奥帯那山…帯那山…帯那山登山口
−鼓川温泉−甲州街道−大月IC−八王子IC−町田
〜中山…庵庵

〜:電車、…:歩き、−:車
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2連戦

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先週末に引き続き、両国2連戦であった。2連戦の前には職業柄、どうしても両国の2文字を冠することを禁じ得ないのである。肝臓の巴戦である。今週の金曜日は会社内組織が改正されてのキックオフ宴である。膝突き合わせてビールを飲むことが恒久的な人間関係上の潤滑油となることを願って止まない。そして昨日土曜日は高校の同窓会である。向こう一年間の運営の大半を司る新役員は高校卒業し立てほやほやで、幸か不幸かアントニオと干支が一緒である。隔世の感は否めない。還暦を迎えてしまったような衝撃であった。また、同窓会には同期が出席しなくなって久しい。御蔭で同期以外の馴染みがまた今回も増えた。当然の産物である。知人がいなければ作ってしまうことだ。同窓と言うたった一つの共通点は、実際には果てしなく無限に広がることを知らない人は、不幸である。人生はバトルロイヤルなのである。そもそも第一ラウンド開始が14時である。何だ神田で、或いは当然ながら、バトルロイヤルは深夜にまで及んだ。バトルロイヤルを勝ち抜くのも並大抵の努力では成し得ない。
そして、弱っていた。2連戦の後だから敢えて手加減との理由も添えられよう。加えて、勝沼のマ
ラソン後あたりからだろうか、3年前の事故脚の膝を庇ってか、左足首周囲に違和感を覚えて久しいように思う。今年の冬の寒さが例年より厳しいことを物語っているのだろうか。4日の那須の雪は想像を絶していた。何時に無く弱気になり、先週は慣れぬ知人を伴ったとは言え、丹沢は高々烏尾山程度でお茶ならぬおでんを濁していた。今回は二日酔い必至とのことで可也選択は甘かった。
朝5,6時台とは言え、R16は交通量は少ないとは言えない。日曜の朝は土曜の朝より混んでいるのか。ウンザリしながら交通量の殆ど減らないまま八王子バイパスを通過。週間予報は晴れを謳っていた筈が、中央道の上空の雲行きは怪しさ極まりない。大月近辺で一瞬だがデカく聳える筈の富士の影の欠片も無い。前日の心掛けが拙かったのだろうか。蛾ヶ岳プランへの変更も可能なように資料は準備して来たが、緯度は違えど経度は殆ど一緒で天候に差異はなかろう。帰りの温泉群を比較検討した末、帯那山案に軍配を上げた。
勝沼の先は、中央道と中央本線は著しくルートを違えており、我々は山梨市駅を更に北上する必要があった。R140から別れて県道を進めば、漫画日本むかしばなしが如きセピア色の風景画の世界が広がっていた。何時しか天候も回復の兆しさえ見せている。坊や、良い子だ、早起きな。
県道で標高を稼いでいるうちに、帯那山登山口に到達。人の気配がない。何故か。簡単過ぎるためか。交通不便な故か。何れにせよ、先客は居ないようだ。
幾箇所か倒木に行く手を阻まれたものの、二日酔いから目覚めぬ体には適当な運動であった。間伐された杉を分け、この標高に及んで舗装までされている林道を2度程横切り、小一時間で山頂に到達してしまった。其処では休まずに、先へ進む。落ち葉を踏み締めながら10分程で二等三角点のある帯那山山頂である。ガイドブックに拠れば此方は奥帯那山と記述されている。然し、三角点が在る以上、地形図の観点では此方こそが「帯那山」であろう。ただ、三角点とは言え、二等とは古過ぎる故か、残念ながら林に囲まれており展望には恵まれなかった。林も手入れをしないと樹種が偏ってしまう。杉植林政策は悉く悪者扱いにしかならないようだ。
先程通過した、拓けた地点に戻る。此方には山梨百名山の碑もあり、窓硝子が全て取り去られてしまってはいるがコンクリートの休憩舎も存在する。まずまずの天候、残念ながら此処からも富士の姿は拝めなかったものの、兜山などの近隣の山並みは明るい。1時間と言う奈良倉山に匹敵する超短時間の登山で前夜のアセトアルデヒドが分解し切れていないにも拘らず、担いで来てしまった麦茶缶を半ば義務が如く、其の栓に指を掛けていた。昨日の宴会の肝覚から未だ抜けきらぬうちの迎え麦茶である。今日ばかりは麦茶を避けるべきだと舌が胃が、直訴していた。こんなに苦しみながら麦茶を飲んだのは、何時以来だろうか。嗚呼、これならばもう少しは歯応えのある蛾にすれば分解は進んだかも知れぬ。然し、この明るみは心の故郷であった。本当に後を追う者も先を往く者も全く見当たらず、のんびり独占気分は貴重である。今までの山は疲れ過ぎることが多かった。偶には気を抜いて見ようか。もう少し日差しがあれば、お気楽日溜りハイクは縦だ。春には桜も咲き乱れるだろう。
麦茶に摘みを貪った後は、長居は体を冷やすため、直に下山を始めた。帰路は30分程だろうか。俺は本当に山に来たのだろうか。
至近に牧の湯がありながらも既に入湯済みで、かつ時間の余裕もあることから、鼓川温泉を狙う。未だ10時を回った程度で駐車場も空いており、洗い場もゆったりとしていた。露天も温く、山疲れを癒すにはお誂えと思いながらも、何故か体は長湯を欲してはなかった。前々日、前日と肝臓だけは十二分に運動をして天命を待つのみ状態ではあったが、其れ以外の筋肉には余力が残り過ぎていたのであろうか。
風呂も早ければ未だ食堂も営業しておらず、15分程暇潰しが必要であった。待合室には近隣の櫛形山や三つ峠などの山頂からの富士の四季が写されていた。新札のどれかにまた富士の点景が印刷されるようだから、其の映像も直に目に焼き付ける必要があろう。結局今年は、旧500円札の富士の写生地にも赴けなかったな、と思いながら、漸く食堂の扉が開いた。甲州おざらなるメニューが目に付いた。言わばほうとうの付け麺バージョンである。出汁が醤油風味だし、何せ時間が経過すると出汁が覚めてしまうのが玉に傷と言ったところか。成る程とは思うのだが、庵的にはやはり味噌仕立てで熱々の竹馬の其れには敵うまいと感じるしかなかった。やはり、歯応えのある山の後でないと、味覚は敏感にはならないのだろうか。
駐車場で御爺さんが地場農産物を陳列していたので、野沢菜の油炒めを所望した。待ってましたとばかりに御爺さんは昨晩炒めて俺も食ったから是は美味いのは間ちげぇねぇと捲し立て、ただただ、そうですか〜、と頷くしかなかった。帰宅して翌日摘んだが、爺さんは正しかった。恐ろしく美味い。ご飯の上で箸が踊り捲る。もう一パック買っておけば良かった。あれで100円とは、参った。そろそろ野沢菜の美味しい季節だ。楽しみである。
未だ昼とは言え、そそくさと下界に戻っては甲州街道を上った。昼下がりに混雑は全く見られず、中央道上り線も快適だった。ただR16は何時もの通りだった。未だ夕方と呼ぶには早い時刻に町田に戻って来てしまい、今日は一体何をしたのだか違和感を抱えたまま、変わり映えの無い横浜線に揺られていた。
(完)
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付録:
山旅アドバイス
・帯那山登山口には駐車場なし。
・鼓川温泉の食堂は11時半からの営業。刺身蒟蒻、田楽は美味。