涼嶽

不定期連載 山道をゆく 第135話
03/08/13 御岳山
03/08/13 摩利支天山(庵選千名山234)
御岳(日本百名山、信州百名山、庵選千名山235)
【涼嶽】

8/12(火)
庵庵−R16−八王子バイパス−八王子IC−諏訪湖SA−塩尻IC
−R19−

8/13(水)
−県道20号−県道473号−六合目駐車場…八合目…三ノ池避難小屋
…飛騨頂上五ノ池小屋…摩利支天山…二ノ池新館…36童子お鉢巡り
…御岳…覚明堂…石室山荘…八合目・女人堂…六合目−けやきの湯
−道の駅三岳−R19−道の駅木曽ならかわ−塩尻IC−諏訪湖SA−八王子IC
−八王子バイパス−R16−庵庵

−:車、…:歩き

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
長期休暇でしか出来ないこと。今年の終ぞや縦走敢行は果たせなかった。然し、思い切り時間の掛かる日帰り山行を経験したい。コースタイム10時間の平ヶ岳に大分意識させられた。刻一刻と変わる天気予報に一喜一憂する。嗚呼、矢張り崩れるのは必至なのか。この夏の僅かな野望さえ潰えるというのか。出来れば好天の稜線を跋扈したい。針路を大きく変更してみよう。急いで地図を買い込み、東北道では無く、中央道の人となる決意をした。
気も逸っているのか、諏訪湖SAまで何とかノンストップで到達し、仕方なくNotePCを開く。バッテリーもイカレているため、あちこち歩き回ってコンセントを探した。NotePCのディスクの空き容量も空しく、幾度メーラーが強制終了したことだろうか。休みと言うのにメールチェックに30分も長居を余儀なくされ、嗚呼、さっさと新しいPCを買わねばならないと肝に銘じた。
塩尻ICからは中山道を行く。至近に高速道が走っていないため、界隈の物流の動脈となっており、大型トラックが夜中構わず引っ切り無しに走っている。そして沿道の駐車地帯にも仮眠に勤しむ何十台ものトラックを確認させられた。是が現代の中山道の姿である。
元橋の交差点からR19を逸れ、道は傾斜を増した。九十九折は十八番ではない。追う車には潔く道を譲り、とぼとぼと上を目指す。お盆と言えども想像を遥かに下回る交通量に思う。思えば、皆ロープウェイ乗り場方面へ直行だったのかも知れぬ。ギアもサードかセカンドを使わざるを得ない場面が増えて来た。此処を下から歩くのはやはり苦難である。6合目までは文明の利器に頼らして貰った。
長かった九十九折に終止符を打ったのは予定通りの1時寸前であった。駐車場は未だ30%程度の入りであった。夜明けに掛けて徐々に埋まっていくのであろうか。今晩は星は一つすら見えないが、月は煌々と6合目を照らしていた。きっと夜明けには冷え込むであろうと家から持参した布団を掛け、横になった。バイクでは是が出来なかったのだ。
夜が明けた。寝坊だ。丸々1時間。すっかり辺りは明るい。周囲の車も軒並みも抜けの空だ。先行されてしまった。何でも今日はスーパートライアスロンが開催されるとか。この地も次第に混雑してしまうのだろうか。急いで支度をしていると、とあるオジサンが寄って来て、此処より上へ車で到達可能か、と問う。そんなことも判らないようであれば行くべきではなかろう。地図上では林道が続いているが、其の先に駐車場や登山道がはっきりしていない。「是以上は無理ですよ」と回答した。歩くのが嫌なら山を止めることだ。
さて、5時台前半とは言え庵的にはかなりの遅発で焦りもあった。コースタイムも9時間を越えそうな長丁場である。そんな中、2人の女性が庵速気味に先を行くではないか。ただでは済まさんと思ったアントニオは序盤から庵速フルスロットルを噛まして先ずは1人抜いた。庵の挨拶に返事は返らなかった。続くもう1人に接近すると此方を振り返った。其の形相に怯まざるを得なかった。梅干お婆ちゃんなのである。年齢の割には足並みは頗る軽快だ。このお婆ちゃんも挨拶を返してはくれなかった。様相からすると、ハイカーではなくランナーなのであろうか。トライアスロンとは、一体何処で泳ぐというのか。千曲川か。大変なことだ。山は本来競ってはいけないのだ。御岳山のようなポピュラーな山に走ろうものなら忽ち人身事故は免れないであろう。
7合目からはロープウェーの客も合流し、山域から観光地と化した。軽装な人が目立つ。夏だし、仕方ないか。森林限界に近付きいて陽光を背に浴び初めるまでは二の足を踏んでいたアントニオは先行くハイカー・観光客等を、遺伝子組み替えで超アメリカンサイズ化した牛蒡抜きを敢行した。砂具合が富士や利尻を彷彿とさせた。
8合目の女人堂にもトライアスロン関係者も混ざっているのか、朝から可也の賑わいであった。旗も靡く。小休止の後、直登ルートを避け、三ノ池・五ノ池方面へ回り道を始めた。途端に交通量も減った。青空と汚れの無い空気に囲まれ、アントニオ独壇場であった。そして、目くるめく花々の息吹に感嘆符も256倍モードだ。夢枕獏の「神々の山嶺」にて深町がエベレスト登頂前に高山トレーニングを重ねた御岳である。堂々の3,000m峰である。トレーニングには相応しい舞台が整っていた。
サンカヨウ、
ニリンソウ、
クモマグサ、
カニコウモリ、
オンタデ、
ハクサンチドリ、
ハクサントリカブト、
キバナシャクナゲ、
セリバシオガマ、、、
今日も元気だ、山道が燃えている。夏はこうでなくてはいけない。ナナカマドの実も緑だ。秋にはまた燃え盛ることであろう。
花々に心を躍らされながら辿り着いた先には、また美しいエメラルドグリーンの三ノ池が継子岳と残雪に見守られていた。青空が映す水面。水際は何も言わず安らぎを醸し出した。
御岳山頂域は意外と広く、継子岳も巡ると10時間を越えるロングコースとなってしまうため、今回は涙を飲んで断念し、五ノ池で折り返す予定としていた。其れでも9時間は必要だったと思う。更に朝寝坊1時間分もあり、爽快な山頂域をやや庵速気味に焦りながら風を切って行った。西に広がる雲海より高い五ノ池の水面は透明度を増し、清楚な佇まいの飛騨頂上五ノ池小屋の庭に煌くアクセントを与えていた。小屋のスタッフも明るく、話も弾む。聞く所によると、矢張り今年は天候不順が続き、今日も其の束の間の晴天のようだが、午後にはまた崩れてしまうだろうとのことであった。水冷の缶ビールが胃に染み渡る。次回は此処に泊まるのも悪くないな。
アントニオは引き続き、雲海を見下ろしながら稜線で距離を稼いだ。8合目までの喧騒は有り難い事に皆無に等しかった。最短コースで終わってしまう人は不幸である。山は逃げない。逃げているのは貴方なのだ。二ノ池方面への稜線と暫し別れ、岩道にしょ気掛かったイワギキョウに哀れみを感じながら、やがて摩利子天山に到着。山頂札が、岩稜帯にちょこっと抜き出ているだけの山頂である。庵の知る範囲でこの摩利支天を冠する山は他に2峰、乗鞍岳と甲斐駒ヶ岳山域に夫々存在する。乗鞍のが標高2,873m、甲斐駒の其れについては地図に標高が明記されていないのだが、甲斐駒自身が2,967mであることを考慮すると、此処の摩利支天山2,959mが、全国摩利支天組合中の最高峰ではなかろうかと思われる。岩のほかに何も無い。雲海よ、ざまぁ見ろ、摩利支天。
見下ろす雲海に心を躍らされながら、今年2度目の標高3,000m地点を目指して進んだ。二ノ池新館小屋の佇まいからしてアレは常温だろうと思い、手を引いた。然し、この標高にも拘らず、風呂に入れるらしい。恐るべし。
やがてコバルトブルーに輝く日本最高所の池、二ノ池を掠めた。池の辺には二ノ池小屋の青い屋根が何とか保護色を纏って必死にこの山域に同化していた。小屋の目の前はビーチだ。ショーシャンクのビーチも此処くらい美しかろう。俺は生きるぞ。
二ノ池を東側に見下ろしながら、お鉢巡りの最終コーナーをゆっくり回る。36体の童子像が点在しているようだが、残念ながら興味を惹くことはなかった。もう標高は3,000mを越えているのだろうか。今朝の寝坊は高山病克服には必須だったのかも知れぬ。深町がトレーニングをしたあの名峰は目前だ。
御岳という山は実は存在しない。富士山同様、此処も最高峰は剣ヶ峰と呼ぶ。大山も乗鞍岳も同様だ。そして、何処から涌いて出てきたのかと思う程の人いきれである。山頂直下に売店もある。御嶽神社も信仰や修行の対象とは粗見なされていないのではなかろうか。富士山より手軽な高所観光地である。修行などと言う仰々しいフレーズは風と共に消えて行った。「神々の山嶺」の神聖さは跡形も無く崩れ去った。是が現実なのか。兎に角、写真を撮ろうにも人を入れずに撮影することが難しい。乗鞍や恵那山などの眺望は縦なのだが、山を登った達成感は今一つである。そうだ、今日は夏休みど真ん中だ。そんなものだろう。
山頂直下の小屋も常温ものであり、覚明堂や石室山荘にもピットイン仕掛けたが、観光地に失望したのか、それとも夕べには届かなかったメーカーからの回答メールをいち早くユーザに伝達する必要を感じたためか、下山路では再び庵速フルスロットルで疾走して行った。トライアスロンの続きか。8合目の女人堂で冷えたボトルで喉を潤し、また下山を急いだ。擦れ違う者は、水筒の類を持たぬ者あり、サンダルや革靴履きの者あり、御岳は完全に舐められてしまっていた。7合目を過ぎると終ぞや誰1人とも擦れ違うことはなかった。6合目の中の湯は閑古鳥が鳴いていた。7合目までロープウェーが存在する今、6合目から登ろうとする者は酔狂の部類かも知れぬ。そんな中、中の湯はしっかりと営業努力を続けているのだろうか。
6合目の駐車場に戻れば、トライアスロンのテントも畳まれ、其れに纏わる喧騒を終ぞや知らぬままであった。駐車車両数もあまり減ってはないが増えても無い。結局は殆どがロープウェーに流れてしまっているのだろう。
中の湯には触手惹かれなかったため、他の温泉を探すことにした。距離的にも穴場ではなかろうかと思い、けやきの湯を目指す。2合目まで下って一旦ロープウェー乗り場方面へ折り返し、暫くすると砂利道の先にぽつんとあった。日帰り温泉ぽいネーミングの見込みが外れ、どうやら一軒宿のようだ。どうみても普通の家なのに、秘湯を守る会の会員宿である。5,6人で満員となってしまいそうな小さな浴槽。果たしてどの辺りが欅なのか。浴槽はコンクリートのようだし、大体露天もない。ううむ、秘湯か、、、湯温が適当なのが幸いだった。いや、やられた。脱衣所の隣りに、「露天」の張り紙が、、、ううむ、ま、いいか。次回は間違いなく露天にも寄らせて貰おう。
道の駅三岳では、何か目ぼしい地場産物もあまり見付からず、ポスターに気になった朴葉寿司は季節がずれていたようだ。朴葉味噌の苦い思い出の再現は、幸か不幸かならなかった。
沿道の土産物看板のうち、地酒の其れが目にちらついていた。道の駅では売ってない。何とかスーパーを見つけては酒売り場を物色し、中乗さんと七笑の原酒を調達した。どんな深みを見せてくれるだろうか。楽しみである。
R19は昨晩とは打って変わって乗用車が目立つものの、車の流れは滞りなく、塩尻ICへと続いた。R19沿いでの給油には県外者価格を吹っ掛けられるかも知れない。塩尻市街地では価格表示のスタンドは悉くリッター105円程度を示していた。これなら高速で入れたほうが安くないだろうか。往路同様諏訪湖SAでピットインし、また業務メールチェックをしなければならなかった。御蔭で上下線の各諏訪湖SAのコンセントの位置は抑えることが出来た。全国コンセントマップでも作成するか。それより、NotePCのバッテリーを買い換えるべきかも知れぬ。。。案の定、諏訪湖SAのスタンドはリッター101円となっており、塩尻市街地より安かった。後は渋滞さえなければ良いのだが。
がーん。
追先ほど、SAのスタンドでフロント硝子を綺麗綺麗にして貰ったのに、10分と経たぬうちにまた虫が衝突したのである。車体色オレンジ色が原因か。さもなくば、CUBEの箱型が原因か。もう少し流線型体に近ければ、進入角度によっては虫も潰れないで済んだであろう。箱型CUBEの宿命である。箱型で無ければCUBEでない。虫に負けるな。イや、負けては決して居ないのだが。
確かに交通量も多いが、大月過ぎ程度までは非常にスムーズな流れであった。そして、今日も10日と粗似た状況の滞りに苛まれることになった。上野原・小仏ダブルブロックである。今日の渋滞は先日より1.5割程短かったのだが、全く気休めにはならなかった。小仏トンネルを削って登りを回避すれば解決にはならないのか。今日も中央道は人気者だった。R16も相変わらず人気者で、車が犇いていた。嗚呼、疲れた。

(完)

☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★

付録:

山旅アドバイス
・ロープウェイから黒沢口登山道を経て御岳山頂往復がポピュラー。
喧騒を避けたければ8合目から三ノ池を目指すと良い。
・二ノ池やお鉢近辺は硫黄臭が漂うため、過度な長居は禁物。